【問1】労働基準法・労働安全衛生法
解説
前年同様、問Aは条文ベース、問B,Cは最高裁判例から、問D,Eは安衛法の条文ベースからの出題でした。この傾向が労基安衛法の出題基本パターンとして定着されるでしょう。
各肢の解き方
問Aは解雇予告の問題で、過去択一式で何度も出題されているケースですので、間違えてはいけません。問は9月30日の終了となっているので、30日の予告期間をあけると②の8月31日が正解となります。もし、問が8月31日の終了と末日が31日の場合は8月1日が該当日となります。
問B,Cは最高裁判例(東亜ペイント事件:昭和61年7月14日)からの出題でした。昭和時代の判例ですので、学習が手薄になる部分かも知れません。
裁判所ホームページによると、会社の就業規則に、業務上の都合により従業員に転勤を命ずることができる旨の規定があっても、転居を伴う転勤は、従業員の生活に影響を与えるから、会社の転勤命令は無制約に行使できるものではなく、濫用することは許されず、
・転勤命令に業務上の必要性がないとき
・業務上の必要性があっても転勤命令が他の不当な動機・目的をもって行われたたとき
・従業員に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるとき
といった特別な事情があれば、権利を濫用したと考えられる。
となっています。
太字の部分が問題個所ですが、正解肢・ダミー肢が安衛法の選択肢の中に紛れる形で時間を使わせ、惑わせるようになっていました。⑪や⑲を選択された方も多いのではないかと思います。
問D,Eは安衛法の条文穴埋め問題で、マイナーな数字を出されることもなく非常にシンプルで解きやすい2問でした。
問Dは雇入れ時、作業内容変更時の教育の部分で、派遣労働者と絡めて何度も択一式で出題されていますし、令和2年の安衛法、問10-Bで全く同じ論点が出されていますので確実に正解できる問ですし、問Eについても平成18年(2006年)の選択式で安衛法3条1項が出されています。ダミー肢も明らかに違うであろうものが多いので、今年の安衛法は取るべき2点だったと思われます。
目標点数
【問2】労働者災害補償保険法
解説
労災保険法からも最高裁判例が出題されましたが問題そのものはそれほど難しくはありません。問A,Bが雪崩式に間違う可能性があるため、A,Bが取れていると確信が持てれば問C以降も落ち着いて対応できたと思います。
各肢の解き方
問A,Bは障害等級の決定(併合、併合繰り上げ)が論点でした。令和2年の択一式でも出されて、同様の論点が没問となった2年後に選択式で出してきたのは興味深いです。
(問題文かっこ書きの13級の8との記載は13級8号と読みかえても大丈夫です。13級8号が”一下肢を一センチメートル以上短縮したもの”となります。ちなみに、13級9号は、”一足の第三の足指以下の一又は二の足指を失ったもの”となります。)
13級以上の身体障害が2以上あるので、重い方の等級を1級繰り上げるため、10→9級になり、問Aは②の9が正解となり、新たな障害につき給付される額は9級(391日)から、既存の等級13級(101日)を引いた⑦の290が問Bの正解肢となります。
問C~Eは、中小事業主の特別加入制度の趣旨に関する出題でした。判例の穴埋めですが、Cについては、労災保険そもそもの大原則、”労働者の業務災害又は通勤災害に対する保護を目的とするもの”であり、労働者に該当しない者には適用されないが、労災保険により保護するにふさわしい者として「中小事業主」が存在することと、”保険関係上”・”~とみなす”という問題文から問Cは⑱の労働者を選んでほしいところです。
問Dは若干難しいと思いますが、平成29年問7-Cで関連問題が過去に出題されているので、今回の正解肢と言い回しが異なりますが、「労働者に関し成立している労災保険の保険関係を前提として」が論点とわかれば、⑲の労働者を使用するものがあること、と選べたかも知れません。
問Eは問題文中に幾度となく”営業等の事業”はダメですよ。と書かれているので、素直に⑨の営業等の事業に係る業務を選ぶことができると思います。
目標点数
【問3】雇用保険法
解説
算定対象期間・賃金日額(問A~C)に関する部分と教育訓練給付金(問D,E)の2テーマが出題されました。問Bについては実務をされている方や転職等の経験がある受験生には解きやすかったかもしれません。
各肢の解き方
問Aは過去に何度も出題されているところですので、「最後の」がキーワードとして入る①の最後の完全な6賃金月を迷わず選びたいところ。
問Bは④の雇用保険被保険者離職票がどのようなものかがイメージできると正解しやすいです。
ハローワークのホームページにサンプルがありますが、当該票の中央に賃金支払状況を書く欄があり、ここが賃金日額の算定のもととなります。
問Cは基本手当日額の最低額の引上げについてですが、年々変わる額についてどこまで抑えられていたかがポイントとなりますが、丸暗記で④の2,061円と解答できる受験生は少ないと思います。が、問題文に最低賃金日額が2,577円と記載されており、その80%が基本手当日額とわかれば、2,061円と計算できますが、すぐ解ける人と時間を使ってしまう人とに分かれる問題だったように思います。
問Dは教育訓練給付金の支給要件の実例ですが、選択肢となっている4回の退職日(A社1回、B社3回)のどこで一番早く支給希望が通るか。という設問であり、失業して1年以内で再就職しているかどうか、在籍通算3年になっているか等の支給要件を考慮して③の令和3年8月31日を選べるかどうかですが、平成、令和と元号の異なりもあり試験本番ではあせりをうむ問題でした。これもすぐ解ける人と時間を使ってしまう人とに分かれる問題だったように思います。
問Eは一転、必須暗記ポイントでした。「4,000円」がキーワードで、”超える”場合は”支給しない”わけはないので、③の4,000円を超えないを確実に選びたいところです。
目標点数
救済の可能性について
今回の3科目については、なんとか3点は取れる問題構成だったように思います。ただし、4点目は取りにくく、油断するとすぐ2点となってしまうようなものばかりでした。
こういう時にいわゆる”誰得救済”になりがちなのが「雇用保険法」ですが、感覚的に「A」は初学者でも取れそうな感じですし(実質二者択一?)、「B」についもて経験上から解答できた方もいたと思います。「E」も実質二者択一と考えられるので、2点以上の方は多いとみています。
以上のことから、今年の3科目(労基、安衛・労災・雇用)については救済がかかる可能性は低いと考えられます。